
●イギリス再訪
私がナローボートと初めて出会ったのは、イギリス北部の小さな町だった。
この町の中心部を流れる小さな川が“運河”であることなど知る由もなかった私だが、目を奪ったのは、水面に浮かぶ奇妙な形をした船だった。その船に乗って、運河沿いを歩き始めると、その船たちが、歩く速度よりゆっくりと進んでいたのである。いったいあの船はなんだろう。だれが乗っているのだろう。どうやったら乗れるのだろう。そんな疑問を巡らせながらも、ボートの正体を知ることなく、帰国の途についた。
時は流れ、再びこの船に出会ったのはディスプレイの中だった。ひょんなことから、ネット・サーフィンしているうちにヒット。これが「ナローボート」という名前であることもわかった。さらに、ネット上でボートのチャーターができることも発見したのである。
ナローボートを目にしてから数年。ボートによる運河の旅がいよいよ実現することになった。
●初めて見たナローボート
ロンドンから電車で古都チェスターへ。さらにローカル線に乗り換える。ボートをチャーターしたブラックプリンス社は、6つのマリーナに事務所を構えているが、今回、私が選んだのは、イングランドとウェールズの境にあるチャークという町のマリーナ。町の看板には、ウェールズ語が併記されている。
駅からタクシーでマリーナへ。事務所でチェックインすると、すでにたくさんの客がナローボートを楽しむために集まっていた。車で来た家族連れは、大きなスーツケースをいくつもボートに積み込んでいる。
「これがキミのボートだよ」
案内されて自分の乗るナローボートの前に立つと、その細長さに改めて驚かされる。長さ約18メートル。操縦部のある後部デッキからは船首がほとんど見えない
「気に入ったかい? そろそろ説明をはじめようか」
半ば呆然としている私の所に、スタッフがやってきた。
●え? 自分で運転するの?!
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実は、申し込み直前になってから知ったことがある。
「ナローボートは自分で操縦しなければならない」。
はじめ私は、船頭さんが操縦してくれるものだと、勝手に思っていたのだ。しかし、どうやら自分で舵を取らなくてはいけないらしい。公園の手こぎボート以外やったことがない自分に、ナローボートが操れるのだろうか。
出航前、会社のスタッフによる簡単な講習があるにはあった。が、肝心の船の動かし方については、
「このバーを左右に振れば曲がるよ」 とそっけない。そのスタッフも、マリーナから船を出すなり、
「じゃ、よい旅を。ね!」 と岸に降り、さっさとマリーナに帰ってしまう。
いきなり舵を預けられた私は、やはりビビった。しかし数分もたつと、蛇行しながらも、なんとかボートを操作することができるようになってくる。しょせん狭い運河。遊園地のゴーカートだと思えばよい。コースから外れることは絶対ないのだから。
しかし、ナローボートが走るフィールドは、塀に囲まれたテーマパークではない。運河の続く限り、どこへでも行くことができる。フロリダのディズニーワールドがいくら巨大でも、イギリスに張り巡らされた運河ネットワークにはかなわないのだ。
「なにか飲まない?」
いっしょにボートを借りた友人が、キャビンから顔を出した。酒や食料は、スーパーマーケットでどっさり買い込んである。キッチンにはレンジも冷蔵庫もあるから、なんでも作れる。私はビールと白ワインをミックスした「シャンディ」をもらい、酔いを秋風で醒ましながら舵を握っていた。
●初めての旅でボーターの聖地に
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ナローボートの舳先がどうやら自分の思い通りの方向に向けられるようになった頃、早々と旅のクライマックスがやってきた。
ポントカサステ水道橋。
この水道橋が渡りたくて、この運河を選んだのだ。目もくらむ高さから峡谷を見下ろしたとき、長い間夢に見ていた運河の旅が実現したことに、あらたな喜びをかみしめた私だった。
期間:1998年10月10日〜10月13日
ボート会社:Black Prince Narrowboat Holidays
ボート:Ruthin号(Duchess 4.3クラス、60フィート/4人乗り)
航行コース:スランゴスレン運河
Chirk〜Llangollen間往復 航行日程 : 10月10日(土)Chirk〜Llangollen
10月11日(日)〜Chirk Bank
10月12日(月)〜Nr. Chirk
10月13日(火)〜Chirk
参加メンバー:私、友人4名(入れ替わり)
1998年秋 スランゴスレン運河