●初めてのアイルランド
今回のナローボートの旅はアイルランドである。
これまで計5回の旅をイギリスでやってきたが、ここいらでちょっと毛色の変わった場所でボートを借りてみたいということで、アイルランドでの旅が決まった。
アイルランドにもボート会社がいくつかあり、「カナルホリディ・UK」のページからも検索できる。ボートを借りるプロセスについては、イギリスのボート会社とまったく同じである。

しかし、いくつかの会社からブロシャーを取り寄せてみると、いくつかの相違点が見つかった。
まず、イギリスの運河で営業しているボート会社は、私の知る限りすべてナローボートを貸しているのに対し、アイルランドの場合は、いわゆる"プラスチック・洋クルーザー"を貸している会社も多い。これは、運河だけでなく、河川や湖沼にも入ることができるからだ。
また、ナローボートを貸している会社でも、その規格がバラバラなのだ。イギリスの場合、ナローボートの幅は、運河の幅にあわせて7フィートと決まっているが、9フィートや10フィートのボートを扱っている会社もあるのだ。イギリスにも、私が知る限りではアングロ・ウェルシュ社がブリストル・ベースで幅広のボート"ワイド・ビーム"を貸しているが、アイルランドの場合、多くの会社でこういった幅の広いボートを扱っている。これは、運河の規格がイギリスとは違うということなのだろう。

今度の旅は、妻のハナエと、私の第1回目のボート旅からお付き合いいただいているヒグチ氏(ダーラム大学助手)とその彼女のイノウエさんの3名と私。ハナエと私は空路ロンドン経由で直接ダブリン入りし、ヒグチ氏らはダーラムから車でベルファスト経由でアイルランド入り。7月22日に彼等にダブリンでピックアップしてもらい、一路ベースに向かった。

●アイルランドのハイヤーカンパニー事情


今回利用するボート会社はケルティック・カナル・クルーザーCeltic Canal Cruiser (CCC) といい、ダブリンとゴールウェイのほぼ中間にあるタルモアTullamoreという場所がベースである。
夏のバカンスで渋滞する高速道路を抜けて、ベースに到着したのは15時をまわっていた。さっそく事務所でチェックインする。

イギリスの場合、チェックインとはいっても、名前の確認をするくらいで、すぐにボートでの説明に入る。ところが、ここでは、受付の女性からルートについての詳しい説明を受け、さらに地図とロックキーを受け取るのだ。イギリスでは、地図は個人で買うものであり、ロックキーはボートに備え付けられているのに。

それにしても、スタッフの要領の悪さにはあきれさせられた。
土曜日、特に夏のはいシーズン中の土曜日の午後は、出発する人たちでごった返すのが常。ボートの説明を担当するエンジニアやインストラクターなどのスタッフも、いつもより多く配置しておくのが常識だろう。
しかし、このCCCでは、ボートのインストラクションを担当するのはたった2名。それで20艘近い出発をこなそうというのだから、自分の番が回ってくるまでかなりの時間がかかる。また、寝具や内装のチェックをするスタッフも受付の女性が1人でこなしており、てんてこまいなのだ。
私たちのボートのエンジニアがやってきたときは、すでに17時をまわろうとしていた。日照時間がかなり長い季節だとはいえ、かなり時間のロスを食わされた格好である。

エンジニア氏が来て、ボートの説明をはじめた。しかし、そのアバウトさには不安になってくる。マスタースイッチが切れない、スパイクが1本しかない等々……。本当に大丈夫なのだろうか? ちなみに、この時ちっとも冷えていなかった冷蔵庫について、
「じきに冷えるはずだ」
などと彼は言っていたが、旅行中もちっとも冷え切らず、肉類や牛乳を何度もだめししてしまったのである。

ただ、この時は、出航してしまえば何とかなるだろうと軽く考え、また時間もかなり経っていたので、とりあえず船を出すことにしたのであった。

●アイルランドの運河とは? ロックとは?


アイルランドの運河地図を広げてみるとよくわかるが、"運河"と呼べるものはそう多くはない。
まずダブリンからほぼ真西に向けて、国土の腹を切るように走るのが「グランド運河」。そして、やはりダブリンを起点に西へ向かう運河で、グランド運河とほぼ並行に走る「ロイヤル運河」。この2つの運河は、最終的にシャノン川に出ることになる。
一方、グランド運河から枝分かれして南へ向かうのが「バロー・ナビゲーション」。これは、大西洋が終着点になる。運河はこの3本ですべてといってよい。

それではこの3カ所しか航行できないのかというと、そうではない。先にも述べた、シャノン川というアイルランド最長の川に入っていけるのだ。そういった意味では、運河と川のコンビネーションを楽しめるルートであるといえる。

しかしながら、これだけ運河が少ないと、選べるルートも自ずから決まってしまう。今回利用した会社はグランド運河の中間点にベースがあるので、ここから西へ針路を取ってシャノン川に出、川の航行を楽しんで再びグランド運河に戻ってくるか、もしくは東(ダブリン方向)へ行ってバロー・ナビゲーションに入るか、1週間ではどちらかの選択しかない。我々は、前者を選んだ。

1日目は、CCCベースの目と鼻の先にあるタルモアのマリーナ、2日目はそこから14マイル先のアームストロング・ブリッジ付近でそれぞれ停泊し、3日目の昼頃にシャノンハーバーを通過、ここでグランド運河に別れを告げ、シャノン川に入る。

航行しはじめて思ったのは、運河が運河"らしく"ないことだ。まず整備状況がイギリスに比べてかなりラフである。護岸はほとんどされておらず、川底から水面に顔を出している草もぼうぼうとしている。これでは、気軽にそのあたりに係留するなどということはできない。河岸もイギリスに比べてかなり高く、たとえ接岸できたとえしても岸に移るのに一苦労しそうである。ムーアリング(係留所)もほとんどない。

その一方で、水がかなり澄んでいて、川底までくっきりと見えるのは、イギリスの運河ではまったくといってないことだった。水の透明度というのは、汚染の度合いとともに、有機物の含有量によって決まってくるそうだが、このグランド運河の透明度は、泳いでいる魚の姿もはっきりと確認できるほどなのである。

そして、運河旅のキーポイントでもあるロック(水門)だが、基本構造はイギリズのものと同様だ。ただし、規模がでかい! ロックチャンバー(船が入る場所)の容積もかなり大きそうだし、バランスビーム(扉を開けるための棒)も長くて太い。
そして、パドル(水を出し入れする装置)が扉1枚につき3カ所(グラウンド・パドル1カ所、ゲート・パドル2カ所)もあり、全部開け閉めしようとすると、6つのパドルを操作することになる。

特に急いでいなければすべてのパドルを操作することはないが、それにしても、大げさである。注意すべき点は、昇りのときのゲートパドル。パドルを開けると、吸水口から大量の水がチャンバーに流れ込んでくる。その滝のような水がボートを直撃し、キャビンが浸水するおそれさえあるのである。

アイルランドの運河ではまた、ロックキーパーが必ず付いている。イギリスの場合、ロックキーパーが配置されているロックは数えるほどしかない。が、アイルランドのロックは、ロックキーパーが操作するのが基本らしい。もっとも、クルーたちも手伝うことに越したことはないのだがあとで聞けば、1人のロックキーパーが2つから3つのロックを管理しているシステムなのだそうだ。


●シャノン川クルーズ


3日目、ついにシャノン川に入った。イギリスにおいても、河川を航行するのは初めての経験であり、ちょっと緊張しての初航行である。

グランド運河の最後のロックを通過し、しばらく行くと、目の前が大きく開けてきた。いよいよシャノン川である。思っていたより川幅はかなり広い。が、流れはほとんどないように思われる。実際、川に立てられている航行標識と水面の接点を見ても、流れている様子はほとんどない。
このときは、まず下流に向かって船を走らせたのだが、川幅が広いせいもあって、スピード感はほとんどなかった。が、帰路になって逆流になったとき、ボートの進み方が極端に遅くなっている。流れていないように見えても、水は動いていたのである。

シャノン川に入ってからは、下流のバナハーBanagharで1泊、そしてデレグ湖に入る手前のポルトゥムナPortumunaで1泊して折り返し、今度は上流のクロンマクノアClonmacnoisまで行った。

ロックは、バナハーとポルトゥムナの間に1カ所あるが、これがまた巨大なロックで、小型のプレジャーボートなら10艘以上は入ろうかというような代物。もちろん、ロックキーパーが機械で動かすロックなので、クルーが操作することはないが、船を安定させるため、船の前後からピットにロープをかけ、それをクルーが持っていなければならない。大きなロックの中で、ボーターたちがそろってロープをギュッと握っている様は、ちょっとおかしくもある。また、このロックでは料金を徴収される(1艘1.20ポンド)。

●川ではナローボートは役立たず?
ところで、シャノン川に入ったときは、その広々とした空間に開放感を覚え、運河とは違った雰囲気にわくわくしたのだが、ずーっと走り続けていると、なんとも退屈である。風景はイギリス以上に変化がないし、グランド運河以上に係留場所もない。

それ以上に腹立たしいのは、ナローボートの遅いことである。
シャノン川では、クルーザータイプの船を貸し出す会社がいくつもあり、これらの船が、どんどん我々のナローボートを追い抜いていくのだ。もちろん、こちちらはスロットル一杯にしているのに、である。こういったクルーザーは、川では適当に流して、湖に入ったら思いっきり遊ぶらしい。ナローボートは、やはり運河においてこそ意味がある乗物だということを認識した次第であった。

最後は、シャノン川から再びグランド運河に入り、タルモアのCCCへまでボートを走らせた7泊8日。いやいや、運河そのものの違いもあったし、ボート会社の対応にも大きな相違点を発見した。

もっとも、私がアイルランドでボートを借りるのは今回が初めてで、他の会社も含めた総合的な評価を下すことはできない。しかし、今回のCCCに限って言えば、かなりお粗末な会社である。
以前、ボーターのイギリス人に「ナローボートの会社にはあたりはすれがある」と言われたことがあったが、今回はまさにそのハズレ会社に当たってしまったようだ。が、これも経験であり、次の旅に向けての糧になればいいと思っている次第である。

結論づけると、曲がる角ごとにパブや見どころが登場する箱庭のような旅を希望するのならイギリスでボートを借りるべきだ。逆に、人の手が入っていないワイルドな自然の中で思いっきり走りたい人は、アイルランドがおすすめだ。そして、アイルランドを選ぶ人は、ナローボートだけでなく、他のタイプの船もあわせて検討した方がいいだろう。

期間:2000年7月22日〜7月29日
ボート会社:Celtic Canal Cruisers
ボート:Celtic Princess号(40フィート/4人乗り)
航行コース:グランド運河、シャノン川
Tullmore〜Shanon Harbour〜Portumna〜Clonmacnois 〜Shanon Harbourk〜Tullmore
航行日程 : 7月23日(土)Tullmore〜Armstrong Bridge
7月24日(日)〜Banagher
7月25日(月)〜Portumna
7月26日(火)〜Clonmacnois
7月27日(水)〜Pollagh
7月28日(木)〜Tullmore
7月29日(金)Tullmore
参加メンバー:私、妻、友人2名
2000年夏 グランド運河〜シャノン川(アイルランド)